都市型災害に備えろ!電気工事士が担う「BCP(事業継続計画)」の最前線

都市型災害に備えろ!電気工事士が担う「BCP(事業継続計画)」の最前線

2025/12/11

投稿者:elecareer_staff

この度の「青森県東方沖地震」により被害を受けられました皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発令され警戒が続く中、私たち一人ひとりが防災意識を改めて確認する必要性を痛感しています。

近年、日本列島は巨大地震や記録的な豪雨による水害など、大規模な都市型災害に見舞われることが増えています。災害が発生した際、人命救助の次に重要となるのが、病院、通信施設、データセンターといった重要インフラの機能を維持・早期復旧させることです。この役割を担うのが、BCP(事業継続計画)に関連する電気設備工事であり、その最前線で活躍するのが電気工事士です。災害が多発する時代において、電気工事士の仕事は、単なる建設業ではなく、「社会の生命線」を守るという重要な使命を担っています。今回は、BCP対策における電気設備工事の役割とその重要性について解説します。

 

 

 

1. BCPの心臓部:「非常用電源」の設計と設置

災害時に電力会社からの電力供給が途絶えた際、施設機能を維持するための「非常用電源」の設置は、BCP対策の最も重要な柱です。

 

  • 自家発電設備(ディーゼル発電機など)

病院の手術室、高層ビルの防災センター、データセンターなど、一時も電力を切らしてはいけない施設には、自家発電設備が不可欠です。電気工事士は、これらの発電機を設置し、停電時に自動で起動し、施設内の重要負荷(負荷を落とせない機器)に切り替えるための「切替盤(ATS)」の設計と複雑な配線工事を行います。

ここで電気工事士には、設置する施設の規模や性質に基づき、必要な発電容量を正確に算定する専門的な知識が求められます。特に、初期起動時の突入電流(サージ電流)に対応できる設計は、設備の安定稼働に不可欠な専門技術です。

 

  • 燃料確保とメンテナンス

発電機は、設置して終わりではありません。災害発生時に確実に稼働するためには、日頃からのメンテナンスが極めて重要です。燃料の劣化防止対策、定期的な試運転、そして消防法や建築基準法に基づく定期点検は、すべて電気工事士の専門的な業務です。

特に消防法では、非常用発電設備の設置や点検に関する厳格な基準が定められており、点検結果の報告義務が課されています。この法定点検業務を担うためには、電気工事士資格に加え、「消防設備士(甲種第4類)」などの専門資格が必要になる場合があり、高度な専門性が求められます。これらの点検業務は、景気に左右されない安定した需要を生み出しています。

 

 

 

2. 電力を守る「蓄電池システム」と「分散電源」の役割

現代のBCP対策は、発電機だけに頼らず、蓄電池や再生可能エネルギーを組み合わせた「分散型電源」へと進化しています。

 

  • EVを「動く蓄電池」にするV2Hシステム

電気自動車(EV)に搭載されている大容量バッテリーを、停電時に家庭や事業所に電力を供給する「蓄電池」として活用するV2HVehicle to Home/Building)システムの設置が増えています。電気工事士は、このV2H充放電設備と分電盤、太陽光発電設備を連携させ、効率よく電力をマネジメントするシステム構築の鍵を握っています。

 

  • 蓄電池の設置義務化と専門性

太陽光発電とセットでの蓄電池導入は、災害時の電力確保手段として一般家庭にも普及しています。蓄電池は、高電圧を扱い、かつ消防法に基づく設置基準が厳しいため、正しい知識と資格を持つ電気工事士による、高い安全基準を満たした工事が求められます。

 

  • マイクログリッド構想への貢献

近年、大規模災害時に電力網全体がダウンすることを避けるため、特定のエリア内で電力を自給自足し、外部系統から切り離して運用する「マイクログリッド」の構築が進んでいます。大学や工場、地域全体をカバーするこの分散型電源システムにおいて、電気工事士は、太陽光、蓄電池、ガスコジェネレーション(熱電併給)などの多様な電源を統合し、需要に応じて最適に制御するための高度な配線・制御システムの構築を担っています。これは、従来の単なる発電機設置を超えた、地域全体のレジリエンス(回復力)向上への大きな貢献です。

 

 

 

3. 災害に強い「レジリエンス」を高める配線技術

BCP対策における電気工事は、ただ電源を確保するだけでなく、「壊れにくい」「すぐに直せる」レジリエンス(回復力)の高い設備を構築することも重要です。

 

  • 重要負荷への優先給電ルート

災害時、すべての設備に電力を供給することは困難です。電気工事士は、事前に医療機器やサーバーなど「絶対に止めてはいけない」重要負荷を特定し、そのための配線ルートを他の配線から分離させ、耐震性・耐水性の高い工事を施します。

具体的には、配管やケーブルラックの設置において、地震時の揺れを吸収するための「フレキシブルジョイント」の採用や、水害リスクを考慮した主要設備の高所配置、地中埋設管の防水・耐圧性の強化などが挙げられます。特にデータセンターなどの重要施設においては、二重化された給電ルート(デュアルフィーダー)を物理的に離して敷設することで、一方が破損しても他方から給電できる体制を整えるなど、冗長性を高める設計が必須です。

 

  • 早期復旧を可能にするモジュール化

トラブル発生時に迅速に修理できるよう、設備をユニット単位で交換できるモジュール構造を採用したり、配線ルートを分かりやすく図面化・デジタル化したりする設計も、電気工事士の提案力が問われる領域です。早期復旧能力を高めることが、地域の経済活動を支えることにつながります。

 

 

 

まとめ

電気工事士は、単にインフラを「つくる」だけでなく、災害時にも社会と暮らしを支える重要な役割を担っています。BCP対策は、人命と財産を守るための基本であり、その確かな運用には日頃の点検と専門的な知識が欠かせません。

ただし、どれほど設備が整っていても、災害は想定を超える被害をもたらすことがあります。だからこそ、電気設備の安全に関わる立場として、「確かな備え」と「被災者に寄り添い、安全を最優先にする姿勢」の両方を持ち続けることが大切だと感じています。

電気工事士の専門知識と日々の業務は、社会を支える大きな力です。第一種・第二種電気工事士をはじめ、消防設備士や電験三種などの関連資格は、安全な施工や点検、災害時の迅速な復旧に直結しています。

現在も不安の続く中で過ごしておられる方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、重要インフラの維持・復旧に尽力されている電気工事士をはじめ多くの専門職の皆様に深い敬意と感謝をお伝えいたします。

一人ひとりができる備えは大きくなくても、非常用電源や蓄電池設備の点検、身近な防災用品の確認など、少しの行動が安心につながります。この機会に無理のない範囲で備えを見直すことが、地域全体の防災力向上にもつながります。

被害を受けられた皆様が、一日も早く安心して過ごせる日常を取り戻されることを心より願っております。

ご登録・ログイン・求人検索はこちら!

会員登録 ログイン 求人検索 年収診断